個人の皆様へ。特許を個人が自力出願するメリットデメリット|個人出願で弁理士に頼むべきか徹底比較
[徹底比較]
1.特許出願とは何か
特許出願とは、発明を独占的に利用できるようにするために「特許庁」に申請する手続きです。発明を法律で守る仕組みであり、認められることで一定期間は他者が無断でその技術を利用することを防げます。例えば、新しい機械の仕組みやソフトウェアのアルゴリズム、製造方法など、実用的で新しい技術が対象となります。
2.そもそも個人で出願できるのか
「特許とは企業のためのもの」と思っている方も多いのですが、個人が、自力によりまたは弁理士に依頼して出願することはもちろん可能です。特許庁の審査基準に合致していれば、誰でも(すなわち個人でも法人でも)発明を保護する権利を得られます。ご存じとは思いますが、実際に、個人発明家が特許を取得しているケースも少なくありません。
3.特許出願に必要な条件と書類
特許出願には、登録を求める権利を記載する「特許請求の範囲」(以下「クレーム」と略す)と、発明を具体的に説明する「明細書」などが必要です。「明細書」においては、ご自分が持っているアイデアを、技術的にどのように実現するかを含めて、十分に説明する必要があります。また、クレームには、登録を求める権利(技術的範囲)を適切な権利範囲で区切って、明確で簡潔にかつ漏れなく記載する必要があります。
4.個人が自力で特許を出願するメリット
費用を抑えられる
個人が自力で直接特許庁に出願すれば、弁理士に依頼する場合に比べて費用を抑えられます。特許庁への出願料や審査請求料などは必要ですが、弁理士報酬が不要なため、20万~30万円程度の費用が節約できます。
アイデアをスピーディに出願できる可能性がある
新しい発明が生まれたとき、できるだけ早く出願しておくことが重要です。個人が自力で手続きを行う事ができれば、スピード感を持って権利化の準備を進められる可能性があります。
なお、自力で手続きを行うためにも法律的、技能的知識が必要で、その習得に時間がかかる可能性があります。
自分のペースで進められる
個人の自力出願は、スケジュールを自分で管理できる点もメリットです。弁理士に依頼する場合は打ち合わせや書類確認が必要で自分のペースで進められない場合がありますが、自分で手続きする場合は思い立ったときや自分の都合が良い時に準備を始められます。
5.個人が自力で特許を出願するデメリット
専門知識が必要になる
特許出願には法律的な要件があり、専門知識が求められます。明細書やクレームの書き方次第で異なる審査結果が得られるので、適切に発明を記載できないと、特許が認められない、権利の範囲が適切でない、等の可能性があります。
また、適切な明細書やクレームの記載がないと、以下に述べる拒絶理由通知への対応ができなくなることで、特許が認められなくなる可能性もあります。
拒絶理由通知への対応が難しい
審査の過程で「拒絶理由通知」が届くことがあります。これは「特許要件を満たしていない」という理由で届くものですが、これに的確に対応するには法律と技術の知識およびノウハウが必要です。個人が自力で対応するのは難しい場面も多いと言えます。
出願が無駄になる可能性
不備のある書類を提出した場合、最悪の場合は出願そのものが却下されたり拒絶されたりすることがあります。出願が無駄になり、せっかくの発明を守れないだけでなく、他人に先を越されるリスクもあるため注意が必要です。また、出願のためにかけた時間が無駄になるだけでなく、審査請求料などの費用も無駄になります。
6.弁理士に依頼する場合のメリット・デメリット
弁理士に依頼するメリット
弁理士は特許の専門家です。発明の特徴を的確に言語化し、特許庁が求める形式に沿った明細書等を作成してくれるため、特許が認められる可能性が高まります。また、拒絶理由通知への対応も代行してくれるので安心です。
弁理士に依頼するデメリット(費用面など)
一方で、費用が自力出願より高額になる点は大きなデメリットです。特許庁への出願料や審査請求料など以外に、弁理士報酬として 20万~30万円程度の費用がかかります。個人にとっては負担が重く感じられることもあるでしょう。
個人の自力による出願と弁理士依頼の比較
個人による自力での出願は「低コスト・自由度が高い」が、「成功率が低い」という側面があります。弁理士依頼は「費用がかかる」が「成功率が高い」という特徴があります。どちらを選ぶかは、発明の重要性や将来のビジネス展開にどれだけ関わるかによって判断すべきです。
7.発明の対象による選択
トライアル的な発明の場合:トライアル的な出願であって結果を重視せず、費用を抑えたいなら、まずは個人出願で挑戦するのも一つの方法です。 ライセンス収入やビジネス展開を見込んだ発明など、是が非でも特許を取得したい発明の場合:例えば生活用品の発明など、その特許化により、特許権の売却やライセンス収入が見込める発明の場合があります。また、例えば個人事業主として、ご自分でビジネス展開を行うことが見込まれる発明などの場合があります。これらのような、是が非でも特許を取得したい発明の場合、弁理士に依頼して確実に特許を取得する方が安全です。
[まとめ]
個人による自力出願のメリット・デメリット
メリット:費用が安い、スピード感を持てる可能性や、自分のペースで進められる デメリット:専門知識が必要、拒絶理由通知の対応が難しい、出願が無駄になるリスク
弁理士依頼のメリット・デメリット
メリット:成功率が高い、専門家に任せられる安心感 デメリット:費用が自力出願より高額
(ただし、自力出願に失敗して審査請求料が無駄になるより良いとも言えます)
状況に応じた最適な選択肢
もし発明がライセンス収入を見込めたり、これからのビジネスに直結するような、自分にとって重要なものであれば、多少費用がかかっても弁理士に依頼するのがおすすめです。一方、まずは経験として特許出願をしてみたい場合や、費用を抑えたい場合には個人出願も選択肢となります。
[よくあるQ&A]
Q1. 個人が自力で特許出願する場合、費用はいくらかかりますか?
A. 特許庁への出願料は1万円程度、審査請求料は十数万円かかります。個人が自力で手続きを行えば弁理士報酬が不要なため、全体としては20万~30万円程度の費用が節約できます。
Q2. 権利化特許出願に必要な期間はどれくらいですか?
A. 出願から特許査定までには1年以上かかることが一般的で、長くて2~3年かかります(出願直後に審査請求をした場合)。権利化を早めるため、かつ、他人の競合する出願に対抗するため(すなわち先願権を確保するため)、早めの出願が推奨されます。
Q3. 個人が自力で出願した後に弁理士へ依頼することはできますか?
A. はい、可能です。最初は個人が自力で出願しても、途中で弁理士に依頼し、拒絶理由通知への対応や補正書の作成などをサポートしてもらうことができます。重要度が高い発明の場合は早めに専門家へ相談するのがおすすめです。